札幌地方裁判所 昭和39年(む)1223号 判決
被疑者 北浦弘
決 定
(被疑者氏名略)
右の者に対する傷害致死被疑事件について、昭和三九年八月二五日札幌地方裁判所裁判官東原清彦がなした勾留期間延長請求却下の裁判に対し、札幌地方検察庁検察官今野健から適法な準抗告の申立があつたので、当裁判所は、次のとおり決定する。
主文
本件準抗告の申立を棄却する。
理由
第一本件準抗告の理由
末尾添付の書面記載のとおりであるから、これをここに引用する。
第二当裁判所の判断
(一) 本件準抗告申立の理由第一点は、本件の実況見分調書が司法警察員より未送致のため、被疑者等の詳細な取調べができないというのであるが、検察官提出の一件記録を精査するも、右実況見分調書の送致が遅れている特段の事由が何ら認められない本件において、右の理由で勾留期間の延長を認めることは、捜査官の一方的不都合による遅延のために被疑者に不利益を強いるものと言うべく、到底許容し得ない。
(二) 準抗告理由の第二点は、本件事案は、被害者の死因につきいささか問題のあるところ、医師の死因鑑定書が未完成であるため、その点についての詳細な取調べができないというにある。しかし、一件記録によれば、昭和三九年八月一四日に行なわれた被害者の死体解剖には、検察官等も立会つており、又右鑑定結果の不明、詳細な点は、電話等によつて容易に確認し得るのであるから、右の事情が刑事訴訟法第二〇八条第二項所定の勾留期間を延長しなければならないような「やむを得ない事由」であるとは認められない。
(三) 準抗告理由の第三点は、被疑者と本件参考人等とは以前からの知り合いなので、もし被疑者を釈放するときは、これ等の者と通謀し、今後の捜査に支障をきたすというのであるが、一件記録によれば、被疑者は一応本件被疑事実を認めており、既に検察官による右参考人等の取調べもなされておることが認められるので、通謀により証拠を隠滅する虞れがあるとは認められない。のみならず、単なる証拠隠滅の虞れが前記条項にいう「やむを得ない事由」に該らないと解するのが相当である。
第三よつて、原決定には、何らの違法不当な点が認められず、本件準抗告は理由がないから、刑事訴訟法四三二条、四二六条一項に従いこれを棄却することとし、主文のとおり決定する。
(裁判官 辻三雄 佐藤敏夫 猪瀬俊雄)